はじめに
今年のセンバツの注目選手だった東洋大姫路高校の阪下漣投手が
壱岐高校との1回戦で先発したものの1回2失点で緊急降板した。
試合後、右肘靱帯の損傷であることがわかった。
私は去年の夏まで野球部に所属していた。
私の経験則だが「怪我」をしながら試合に出場する選手は多い。
特に最後の夏の大会は、体に痛みがあっても出場する選手が多い。最悪の場合は痛み止めを飲んで登板している選手もいた。
今回は、高校野球における「怪我」との向き合い方について考える。
怪我をしながら登板した選手
木更津総合 千葉貴央選手
2013年夏の甲子園、2回戦の木更津総合対西脇工業で登板したものの、
打者1人に球速90キロほどの山なりのボールで空振り三振を取り降板した。
肘の骨が神経を飛び越えて亜脱臼している状態で登板していたのだ。
千葉投手は小学生から肘を痛めていた。高校に入ってから肩を痛め、痛みを抱えながら2年の夏の千葉県予選準決勝・決勝の2日間で合わせて318球を投げチームを甲子園出場に導いた。
千葉投手は当時の心境を
「みんなが憧れている甲子園で、このマウンドに立ちたい人がいっぱいいるのに、ケガでふがいないピッチングしかできなかったのは野球に申し訳なかったですね。このままの状態でマウンドに立つのは甲子園に申し訳ない。そんな気持ちでした」と述べている。
盛岡大付属高校 松本裕樹投手(現福岡ソフトバンクホークス)
2014年夏、最速150キロ右腕として注目された松本投手は、
甲子園では変化球を多投する「技巧派」として登板した。
この時、松本投手の肘は炎症しており、決して登板できる状態ではなかったのだ。
盛岡大付属高校関口監督は当時を振り返って
「指導者のエゴだったいうことだと思います」
ひと通りの挨拶と盛岡大附の歴史を聞き終えた後、今回のテーマについて質問を投げかけると、過去の自分を達観したかのように関口は語り始めた。
「2014年は松本と2、3番手の投手に力の差がありました。それで、どんな試合でも、松本、松本、松本という起用になっていました。勝つことが何よりチームに力がつく。そう思い込んだ私は『大事な試合は松本が投げる』というチームづくりを浸透させてしまったんです」
「指揮官のエゴで、結局、2番手以降の投手を育てきれず、エースの松本がケガをしているのに、甲子園で2、3番手投手を使うのが怖いという状態になっていました。夏の大会を迎えるまでの過程に、監督のミスがありました」
松本の右肘に異変が起きたのは、岩手県大会決勝戦の試合中だ。5回が終了してグラウンド整備のインターバルの際、松本本人が「(右肘に)違和感がある」と伝えてきた。
関口は自身の知識不足もあって、「違和感」という言葉に敏感には反応しなかった。
「それほど長いやり取りではなかったんです。違和感という言葉をそう重く感じなかったのもありますし、松本も『あと少しなんで頑張ります』と、代わるような感じではありませんでしたから」
甲子園出場を決めたあと、病院へ検査に行ったが、症状は軽いものだった。「疲労性の炎症。1週間もすれば治る」。医者の診断を鵜呑みにした関口は甲子園入りしてから投げ始めればいいくらいに思っていた。
岩手に戻ると、松本は3カ月ノースロー調整を強いられるほど深刻な状況であることがわかった。結局、同年のドラフトで1位指名を受けたソフトバンクに預けるまで一度もボールを投げなかったというから、相当な重症だったといえるだろう。
なぜ怪我をしているのに登板してしまうのか
①指導者のエゴ
指導者が「選手の将来」よりも「勝ちたい」を優先したときこのようなケースが発生する。
盛岡大付属高校の関口監督は、当時のエースだった松本裕樹投手が怪我をしていたのにもかかわらず登板させた背景を
「そもそも一人の投手を多投に向かわせる遠因は、関口に限らず、指揮官の勝利至上主義による場合が多い。「選手を勝たせたい」と指導者たちは美辞麗句を口にするが、“自らが勝ちたい、恥をかきたくない”という気持ちが根底にある。
同情するわけではないが、2014年当時の関口がそういう状況に置かれていたのもまた事実だ。
関口が高校3年時に初めて甲子園に出場を果たした盛岡大附は、2013年のセンバツで安田学園にサヨナラ勝ちするまで、春・夏の甲子園で9連敗という不名誉な記録を残している。これは史上最長の連敗記録だ。選手として、2008年から指揮を執るようになった監督として、連敗に関わった関口からしてみれば、センバツで初勝利を挙げていたとはいえ、勝利に飢えていた。
「うちは勝っていないチームでしたので、何とかして勝たないといけない。そうした想いだけが先行して、選手の体調とか、控え選手の成長を無視してしまっていた」と関口は回想している。
高校野球は人気がある分、周囲の目を気にしなければいけない。指揮官が結果や成果を最優先に求めるのは、高校野球の人気と勝利至上の風潮があるからに他ならない。
関口は育成の失敗から学び、今の指導につなげているが、多くの指導者が高校野球のそうした風潮から抜け出せないのが現状なのだ。」と述べている。
②選手と指導者との関係
選手が指導者に痛みを申告できる関係であるとともに、指導者がいくら勝ちたい試合であっても「投げさせない」という判断ができるチームでないとこのようなケースになってしまう。
⓷選手の進路と神聖化された甲子園
甲子園に出ることが進路の充実につながる。
特にプロ志望の選手は、試合での登板は大きな評価につながり、また怪我がバレるということは高卒でプロに行くことが難しくなる。
また、甲子園が全試合地上波で放送されることから、全高校野球児の「聖地」となっている。
だから甲子園に出るために、甲子園で勝つために、痛みに耐えながら登板する選手が生まれるのだ。
④関節機能検査の実施の意味
高校野球では甲子園の前に関節機能検査が行われている。
参照 投手の障害予防について | 加盟校の皆さんへ | 日本高等学校野球連盟
その詳細は以下の通りである。
全国大会では大会前、ならびに大会中の投手の関節機能検査(エックス線検査を含む)の結果、肩、肘に重大な障害(肩の腱板断裂および肘の剥離骨折を伴う靭帯断裂の直後)が発生していると判明した場合、大会運営委員長が検査担当医師の報告を受け、大会での登板を禁止する。
なお、この場合、投手以外で出場することは差し支えない。
2025年のセンバツ前に行われた関節機能検査で異常があった選手はいなかった。
しかし、東洋大姫路高校の阪下選手のように試合後に異常があったと発覚する選手がいる。
この関節機能検査に意味はあるのか。
最終的な判断は選手が下さなければならないが、選手の将来を考えもう少し厳しくしてもよいのではないか。
これからの高校野球 「怪我」との向き合い方
まずこれ以上高校野球によって野球人生の幕を閉じざるを得ない選手を減らすために、
以下のことを実施するべきだと考える。
球数制限の厳格化
現在の球数制限 1週間で500球以内
高野連の調査では
「球数制限が実施された2021年から2024年までの大会期間中に肩やひじに痛みが出た確率は球数制限が導入される前に比べて0.91倍となり、低下する傾向が見られました。
また、登板回数が増え、累積の投球数が400球を超えてくると痛みが発生する割合が上昇する傾向が確認されたほか、夏の全国高校野球で痛みが出た確率は春のセンバツに比べて1.63倍と高くなった」ということが判明した。
この調査からも球数制限の厳格化が求められるのではないか。
関節機能検査の厳格化
2014年の夏の甲子園大会では、出場する49校の投手の合計152人を対象に関節機能検査が行われ、12人に軽度な炎症が見られたのみで、投球禁止となる選手はいなかった。
この文章からわかるように、「軽度な炎症」は甲子園で登板することが可能なのだ。
一般的に考えれば、「軽度な炎症」の状態で登板したら重症に至る可能性が高いことくらいわかるはずだ。選手の将来を考えたとき、「軽度な炎症」でも投球禁止にするべきなのではないか。
投球禁止になっても野手として試合に出場することは可能であるため、
選手の甲子園に出るという希望は叶うため、ルール改正をしてもよいのではないか。
おわりに
高校野球はエンタメではない。あくまで部活動である。
中高生のトミージョン手術が増えている昨今、もう一度「怪我」について考えるべきだと考える。
「怪我」の程度にもよるが大きなけがであれば選手人生を絶たなければならない場合もある。
一人でも多くの野球選手の将来が明るいものであることを祈るばかりだ。


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